今年で15回目の特別演習だが、今回は遠隔授業だったため例年以上に学生の努力が必要だったと思う。メディア技術特別演習でも、《映像コンピューティング》や昨年度から加えた《シミュレーション、ゲーム》の課題では、大枠だけがあってそこから自分の作るものを絞り込んでいく。その過程で例年は同じ場所で作業しながら話すことができたが、今年は決まった時間にミーティングをしていく形だった。次の回までの間に何かを編み出しておかなければならないプレッシャーは、きっとそれぞれにあったに違いない。
ただ遠隔であることが利点となって、思いも寄らないものが出てきたのも確かである。孫奎星の『2347年釘付けにされた告解場』は、日本国外にいる知人たちのパフォーマンス映像を使った高山特別演習での制作を引き継ぎながら、パフォーマーの部屋をフォトスキャンで再現した中に映像を埋め込むというアイディアでさらに発展させた。これは、遠隔にいる人同士で共同制作を行う時代ならではの成果である。笠島久美子『Golf Grandpa Game』は、自宅の庭をフォトスキャンで再現し、その中でおじいさんの好きだったゴルフをする。これもプライベートな思い出の詰まったゲームを作るという、自宅作業ならではの制作物だといえる。ジョイス・ラム『はんらん装置』も、コロナ禍の間に毎日行っていた公園の池がイメージの出所になっている。田中彩『新たなダンス作品鑑賞方法の考案』も、自宅にある卓球場を暗転できるスタジオとして使う発想で、ダンスとiPadと長時間露光による撮影を行うことができた。山岸耕輔『水平感覚ver2.0』も、自宅のあちこちで水平を求めることが、生活空間の中に自分のこだわりが滲み出てくる様子になっていて、遠隔の状況によって可能になった映像である。
今回、場所や空間へのこだわりも目立った。林裕人『Can I see You now?』は、人と人とがだんだん距離を狭めて最後に出会うプロセスをグーグル・ストリートビューを通して行う、バーチャルながらも実際に街歩きをする感覚のゲームである。松井靖果『富士登山2020 -富士講を辿る−』は富士講の解説を聞きながら富士山を登るのだが、自分でアバターを操作することによって擬似的に登山をしたかのような気持ちにさせる。いずれも移動や旅行の楽しみが今だからこそ実感できるともいえる。
もう一つ興味深かったのは、どこにも属さない、というべきものが出てきたことである。西村梨緒葉『no name(200901)』は、オンラインミーティングの画面上で時々独自の反応をするが、どこかにいる感じがまったくしない、オンライン上の生物のような存在である。龍村景一『愛玩廃棄物 -PET Bottle-』はペットボトルのゴミの育成ゲームだが、この世に属しているうちはゴミでも、世話をして育成できる架空の世界があるという、この世に属さないことを作り上げているのが楽しい。これまでのメディア技術特別演習では、スイッチなどのフィジカルな要素を取り入れることが多かったが、今後はヴァーチャルな世界にも同じくらい展開していきたい。また上記の制作を行う上で、古澤 龍、薄羽 涼彌の二人のメンターの多大な貢献に深く感謝します。
桐山 孝司