あらゆる関係を刷新しなければならない時期に直面している。鳩、馬、馬車、飛行機、鉄道など、かつてはメッセージを届けるのに常にヴィークル(乗り物)が必要だった。もっと言えば、何かを運ぼうとするときに、ボティ(本体)を必要としたのだ。モールス信号以降の、いわゆる通信技術は何かを運ぶときにヴィークル本体は不要になった。文字列として符号化されたメッセージはヴィークル本体から放たれて電気的なルール(プロトコル)で伝えられるようになった。ヴィークルとメッセージは一体ではなくなったのである。電磁波が発見されて以降は、ラジオやテレビといった放送(ブロードキャスト)が可能になり、グローバルという情報圏(インフォスケール)で想像する「世界」が、誰にとっても常識的な想像力の産物になった。
私たちが当たり前だと思ってきた、社会における多くの関係は、その実どんなヴィークルを利用するかという利用規程でできあがってきた。そのことにパンデミックは否応なく気づかせてくれている。資本家と労働者、生産者と消費者から芸術家と観客に至るまで、どんな利用規程でヴィーグルを利用するかという状況が関係をつくり、それは一般的にコミュニケーションなどと呼ばれてきた。飛行機であろうとインターネットであろうと、あらゆるテクノロジーが距離を克服するために利用されてきた。距離の克服をめぐる手練手管がコミュニケーションという用語で理想化され、その結果分断化された関係、たとえば放送事業者と視聴者、通信事業者と利用者、劇場と観客、美術館と観客、観光資源と観光客といった関係そのものが資本化されてきたのだ。
でも間違いなく、コミュニケーションとしてのマスモビリティは終わりに近づいている。コミュニケーションがつくる「世界」が、これまで考えられていたよりもずっと簡単に壊れやすいことがはっきりしてきたからだ。
「世界」という全体的な力に依存することなく、環境、他者、身体、歴史あるいは文化との相互関係として「<わたし>というローカル」を思考し実験することが、切実な課題として求められている。そしてそれは行為としての芸術表現の使命となりつつある。OPEN STUDIO 2020はその思考のプラットフォームになっているだろうか。
2020年9月
東京藝術大学 大学院映像研究科 教授 桂 英史
●実施体制(修士一年)
制作マネジメント: 龍村 景一, 田中 彩
企画運営: 西村 梨緒葉, 山岸 耕輔, 笠島 久美子, 小嶋 宏維, 林 裕人, 孫 奎星
広報: ジョイス・ラム, 松井 靖果, 内海 拓
●特別演習メンター
インターメディア特別演習: 田中 沙季
メディア技術特別演習: 薄羽 涼彌, 古澤 龍
メディア研究特別演習: 高野 美和子, 吉開 菜央, 木村 絵理子, 阿部 真理亜, カニエ・ナハ
●Web制作
Webディレクション+サイト構築: 早川 翔人
テクニカル・サポート: 薄羽 涼彌, 岡田 直己, 金井 啓太
デザイン: 関川 航平
監修: 桂 英史(本専攻教授), 和田 信太郎(本専攻助教)