あるテレビ番組で、ビートたけしが「ステイホームでも、絵や小説はできるだろうって思ってたんだけど、世の中の動きが止まっちゃうと、なんかそれも難しくなっちゃうんだよね…。」と、ぼやいていましたが、この正直な告白を、私たちは、芸術における「制作者」あるいは、制作者としての「私」をめぐる、大事な意見として聴く必要があると思います。

今回の特別演習の眼目は、私たちの暮らす日常世界を、カメラ（部屋）という特殊な空間概念を用いて把握し直し、それがもたらす「像」の力によって､フレッシュなものに生まれ変わらせる、というところにありました。私たちはまた、カメラ（部屋）が「内と外」「闇と光」といった、対となる二つ（双対：そうつい）を強く意識させるものだということも学びました。

夜と昼、陰と陽、闇と光といった、明るさにかんする双対は、善と悪などと並んで、大昔から存在するものでしょうが、西欧の近代、そこに物理学や光学技術、つまり「科学」が加えられたことで、これらの双対に基づいた二元論の伝統は、アップデートされたと言えます。

カメラ（部屋）においては、壁に穿たれた穴の、その手前に闇がありそこに「私」がおり、穴の向こうには光があります。光は穴を通って「私」のいる闇の方へと流れ込み、「像」を出現させます。その逆はありません。ですからもし「私」が穴の向こう側、光の側に出てしまえば、「像」は消え、この二元論的構造も消えます。つまり、カメラ・モデルにおける闇と光の双対が成立するためには、「私」という観察者の存在が欠かせず、しかもその「私」はいつも、闇の側にいる必要があるのです。

この認識が、私たちの芸術、特に近代以降のアートにとって、どのような意味を持つのか、と考えてみたいところです。絵画も小説も含め、アート作品とは煎じ詰めれば、闇と光の関係性を提示した物体や記号であり、アーティストとはその制作のために、闇の側に生息することを選択した「私」であると言えましょう。外の光が溢れるほど豊富なら、内側の闇は際立ち、「像＝image」はクッキリしてきます。逆に光が減ずれば、闇は際立たず、像はボンヤリ薄れてきます。世の中から輝きが失われると、アートが「難しくなっちゃう」のは、当然のことなのかもしれません。

畠山 直哉