コロナ禍で移動できずに家に居続ける。外にはウィルスの危険があり、他者と会うことはそのリスクを高めるからだ。外から郵便が来ればアルコールで消毒し、できるだけ家の中を安全に保とうとする。すると家はどんどん安全になり、快適になっていくが、いつの間にか外を排除する心性を助長し、自閉した空間ができあがる。
そうした運動は体内でも常に行われている。外から侵入してきた菌やウィルスに対して免疫は戦いを挑み続け、大抵の場合勝利している。ところが、新型コロナウィルスに感染した人を死に至らしめる一つの原因は、免疫系が過剰に働いたことによる多臓器不全だというのだ。
「外」と折り合いをつけて生きていくのが、本当に難しい時代になった。無防備に外へ出ていって他者と触れ合えば危険を冒すことになり、かといって外を排除して内に籠もっていればいずれ自壊せざるをえない。
通常なら元町中華街校舎で昼夜を問わずいやというほど一緒に過ごし、横浜中をリサーチや撮影で動き回ることになる特別演習のはずなのに、学生たちはリアルに顔を合わせることなく、zoomでコミュニケーションし、家に籠もってひたすら課題に応答する日々を送ることになった。課題を通して考察されたのは「ヘテロトピア（異在郷・混在郷）」と「ツアー・パフォーマンス」である。「異」や「他」や「移動」といった現在忌避されているものを、どうすれば別の場所に「うつす」ことができるか。「移る」ことが禁じられ、「感染（うつ）す」ことが恐怖になった今、ヘテロトピアやツアーを別の形に「うつす」ことはできるだろうか。
学生のみんながそれぞれに出した回答＝作品に向き合いながら、こうした問いは特殊なように見えて、実は芸術や芸能にとってかなり普遍的なものであると考えるようになった。富士山に行けない人のために江戸に富士塚が作られ、東海道で江戸・京都を行き来できない人のために東海道五十三次の浮世絵が「道中双六（すごろく）」になり、伊勢に行けない人に代わって犬がお伊勢参りをし、代役の犬も送れない村には空からお札が降ってきて「ええじゃないか」のお祭りが催された。そもそも芸能の起源は田遊びを模した田楽であり、それは宗教儀礼の「写し／映し」が一つの田んぼから方々に「移る」ことを意味した。移動することができない人たちのために、芸術や芸能が他所に「うつす」のである。

高山 明