映像メディア学を標榜する東京芸術大学大学院映像研究科では、映画、アニメーション等の制作実践を学生たちとともに行うと同時に、映像に関わるメディアのあり得べき方向性を模索して来ました。
このたび、本研究科は20世紀の急速な技術の変化に対して、芸術家たちが行って来たさまざまな実験等を再考するため、第一回映像メディア学サミットを開催することとなりました。メディアアート、情報工学、映画、音楽の各分野で、独自の理論と研究から活動するアーティストや研究者を招き、2000年代の文化的状況を振り返りつつ、今後の展望について討議します。
-
第1回 映像メディア学サミット LOOP-01「予見あるいは未見のこと」
- 日時:
- 2010年3月27日(土)14:00〜18:00(開場は30分前)
- 会場:
- 東京藝術大学上野校地 美術学部中央棟 第一講義室 [アクセス]
- 入場料:
- 入場無料、予約不要(定員180名)
- パネリスト:
- 藤幡正樹/大友良英、ジェフリー・ショー、諏訪敦彦、廣瀬通孝、王俊傑(同時通訳あり)
- 主催:
- 東京藝術大学大学院映像研究科
以下のサイトより当日の模様がご覧頂けます。
http://www.ustream.tv/channel/loop-001
第1回 映像メディア学サミット
「世界を切り開くのは人間自身である」という、近代的な認識に変化が訪れつつあるのではないだろうか? 近代が追い求めてきた利便性と合理性を実現する手立てとして、技術開発が「善」とされたのもまた、人間が世界をよりよくしてゆくという視点に立っていたからである。しかし、まさか技術による変革が、人間の知覚や認識にまで影響を与え、世界の見え方までをもここまで変えてしまうとは思ってもみなかったことである。例えば、20世紀初頭の映画の発明が、本来不可逆であるはずの時間概念を可逆にした以上に、現在のデジタル情報化の技術は「現在」というリアルタイムな体験を、良い意味でも悪い意味でも、変化させつつある。こうした技術の無意識的な発展は、時として暴力とさえなることがある。情報技術の成熟とともに、メディア技術の問題はますます人間側の問題になっているのである。 今回のサミットでは、映像メディアを中心に90年代のアートと情報工学の交差点を確認し、さらに現在の日本の文化的状況を踏まえて、未来へ向けたアングルを模索する。
(藤幡正樹)
第1部 結束点としての人間
ジェフリー・ショー × 廣瀬通孝 × 藤幡正樹 × 王俊傑
技術は十分に成熟した。今は、技術について語る時ではない。80年代以降、コンピュータ・グラフィックスの出現がどれほどの驚きを視覚芸術に与えたか、またヴァーチャル・リアリティーが現実を見る方法に対してどれほど大きなショックを与えたのだろうか。これらの技術の新しさが徐々に脱色されつつある現在、その出現の当初から関わってきたパイオニアである二人に参加していただき、その渦巻の中心にいた二人は、いったいそこで何を希求していたのか、また、それはすでに手に入っているのか、あるいはそこから今あらたに何が見えているのか等について、対話を通して考えてゆく。
第2部 工場としての学びの場
諏訪敦彦 × 大友良英 × 藤幡正樹
すでに科学芸術の融合や、学際的であることに特別の意味を見出す時代は終わった。分野を区分けすることに大きな意味がなくなりつつある現在、あらためて映画、音楽、メディアアートを代表する3人の作家を中心にして、2000年以降の文化的状況をそれぞれの分野から振り返りつつ、現在の文化的閉塞状況とそれの打開に向けたアイデアについて対話する。知識を「伝えること」よりも「作ること」に、「分類すること」ではなく「発見すること」に、すでに学びの中心はずれている。そのための場はいかにして作りだすことができるのか? 特に芸術系大学の役割は、一挙に重要になっている。ひとつの希望を構想、提案したい。
パネリスト略歴
藤幡正樹(ふじはた・まさき)
メディアアーティスト。東京藝術大学大学院映像研究科長。80年代初頭からコンピュータ・グラフィックスとアニメーションの制作を始め、90年代からは特異な哲学とユーモアに溢れたインタラクティブな作品を次々に発表。06年、現代グラフィックアートセンター(CCGA、福島)で開催された個展「不完全さの克服」は、08年にコーナーハウス(イギリス)にて再展示。その作品は、私たちが何に現実感を感じさせられるのか、いかにしてそれが作られているのかについて考え、また未来のメディアが可能にするであろう新しい世界にどうアプローチするのかについて考えさせる。著書に「不完全な現実」(NTT出版)など。
藤幡正樹ホームページ
大友良英(おおとも・よしひで)
ギタリスト、ターンテーブル奏者、作曲家、プロデューサー。ONJO、FEN等常に複数のバンドを率い、インディペンデントに多種多様な作品を作り続け、その活動範囲は世界中におよぶ。映画音楽家としても60本を超えるサントラを制作。近年はENSEMBLESの名のもと、音楽の展示作品も多数手がけ、09年は、美術家と共作し、コンサートと展覧会の複合企画「ENSEMBLES09」をゲリラ的に展開。また、岩井主悦監督によるドキュメンタリー「KIKOE」は国内外の映画祭で上映されている。08年、初の音楽論「MUSICS(岩波書店)」を発刊。10年には水戸芸術館で大規模展示を予定。
大友良英のJAMJAM日記
ジェフリー・ショー(Jeffrey Shaw)
メディアアーティスト。60年代よりパフォーマンス、エキスパンデット・シネマ、インスタレーションの分野で活動を開始。VR、AR、没入型視覚環境、ナビゲーション映画システム、インタラクティブなナラティブのための装置などの新領域を開拓し、テクノロジーの創造的活用のための基準を提示してきた。91年よりドイツ、カールスルーエのZKM視覚メディア研究所の設立ディレクターに就任、95年よりカールスルーエ造形大学のメディアアート学科の教授を務めた。03年オーストラリアに戻り、ニューサウスウェルズ大学にiCinemaセンターを開設する。09年より香港城市大学で主任教授としてメディアアートを教え、クリエイティブメディア学科の学科長を務める。
ジェフリー・ショー ホームページ
諏訪敦彦(すわ・のぶひろ)
映画監督。97年に「2/デュオ」で監督デビュー。定型のシナリオなしで即興的に撮影される独特の手法により評価を受ける。2作目の「M/OTHER」は、99年カンヌ国際映画祭監督週間に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。その後「不完全なふたり」(第58回ロカルノ国際映画祭の国際コンペティション部門審査員特別賞)、「パリ・ジュテーム」(第59回カンヌ国際映画祭のある視点部門オープニング上映作品)、「ユキとニナ」など主にフランスを舞台とした作品を制作している。02年より東京造形大学教授、08年より同大学学長を務める。
廣瀬通孝(ひろせ・みちたか)
工学博士。専門は、システム工学、ヒューマン・インタフェース、バーチャル・リアリティ。通信・放送機構MVL/SVRプロジェクト プロジェクトリーダー、産業技術総合研究所特別顧問、情報通信研究機構 プログラムコーディネータなどを務める。情報化月間推進会議議長表彰、東京テクノフォーラム・ゴールドメダル賞、大川出版賞などを受賞。著書に「バーチャル・リアリティ」(産業図書),「電脳都市の誕生」(PHP研究所)、「空間型コンピュータ」(岩波書店)、「ヒトと機械のあいだ」(岩波書店)など。東京大学先端科学技術研究センター教授を経て、06年より東京大学大学院情報理工学系研究科教授。
王俊傑 (ワン・ジュンジエ)
アーティスト、インディペンデント・キュレータ。ベルリン美術アカデミー卒業。台湾のヴィデオアートのパイオニアであり、同国の数少ないメディアアーティストでもある。84年雄獅美術新人賞、96年ベルリンテレビ塔芸術賞、09年台新芸術賞を受賞。光州ビエンナーレ、ベニス・ビエンナーレ、福岡アジア美術トリエンナーレ、台北ビエンナーレなどに参加。また、05年「b!as: 国際サウンドアート展」、06年台北ビエンナーレ Dirty Yoga、09年「グランド・イリュージョン」など数多くの国際展をキュレーション。現在、国立台北藝術大学ニューメディア・アート学科の助教授、アート&テクノロジーセンターのディレクターを務める。Center for Art and Technology
問い合わせ:東京藝術大学大学院映像研究科(総務)TEL: 050-5525-2672/FAX: 045-6560-6202
E-mail: loop [at] gsfnm.jp ([at]の部分は@に差し替え、前後のスペースを削除して送信してください)
[↑UP]